日本では起こらないけれど、アメリカで発生した塗る麻酔によるトラブル
授乳中に歯科治療を受けていいの?という疑問に答えます②
授乳中って歯科治療を受けていいのかな?という疑問について、先月のブログで書かせていただいたように、適切な局所麻酔薬や内服薬を選択することで、歯科治療は可能と言えます。
しかしながら、麻酔を行うにあたって、健常者と同じように注意をする点はありますので、ご心配な方は、アレルギーに関して、医科への対診もさせていただきますので、ぜひご相談ください。
今回のブログでは、麻酔薬に関連して、私が麻酔に関するセミナーを受講した時の印象的なエピソードとして、塗る麻酔(表面麻酔)によるアメリカでのメトヘモグロビン血症をお話ししたいと思います。
アメリカで発生した塗る麻酔によるトラブル
みなさまもご存知のように、アメリカには日本のように医療保険がありません。歯科の治療は一本10万円(!)というように、とても高額のものになります。
そのため、歯が痛くても、歯科医院を受診できない方もたくさんいるとのことです。
虫歯になってしまった。歯が痛い。でも歯医者は高くて受診できない・・・となったとき、アメリカの方々のなかでは塗る麻酔を歯茎にたくさん塗って、痛みを緩和することがあるそうです。虫歯や歯の神経の治療は原因を除去しないとおさまりませんので、塗る麻酔を塗っても痛みは完全にはなくなりません。そしてまた塗って・・・と繰り返してしまうそうです。
日本で行われている一般的な歯科治療での使用量では問題ない塗る麻酔も、塗って塗って塗って・・・と繰り返していると過剰投与になってしまうのです。
その過剰投与により、メトヘモグロビン血症が生じてしまうケースがアメリカでは報告されています。
メトヘモグロビン血症
メトヘモグロビン血症とは先天性と後天性がありますが、ここでは後天性メトヘモグロビン血症についてお伝えします。
人間の体内では、赤血球中のメトヘモグロビンが体の中に酸素を運んでくれます。それに対し、メトヘモグロビンはヘモグロビンに配位されている二価の鉄イオンが三価になってしまい、酸素を運べなくなってしまうのです。
前述の塗る麻酔の大量使用によってメトヘモグロビンが過剰になると、体の中に酸素を運べなくなってしまい、体が低酸素状態になってしまいます。
重症化すると呼吸困難や意識消失を認めます。
アメリカではこの過剰投与により4件の死亡例があるとのこと。
日本で同様の症例があったとは聞いたことがありませんが、健康保険がなく、医療費が高額になってしまう・・・など、国ごとの医療システムにとってはそのような事態もおこってしまうのですね。
長くなってしまったので、具体的な麻酔の薬剤の話はまた次回に続きます。
ちなみに、当院で使用している表面麻酔は
になります。
アメリカのエピソードのあとでは、表面麻酔?大丈夫?と心配になるかもしれませんが、アメリカの例は極端な過剰使用のためなので、診療で使用する少量では、その事例にはあたりません。ほんのりバナナの香りで、ちくっとした痛みが軽減されるので、おすすめです。
登戸クローバー歯科・矯正歯科の歯科医師 川端