多くの歯を失ったあとも、「食べる楽しみ」を取り戻すために
抜歯と入れ歯の設計
先日、ランチミーティングにて、「多数歯の抜歯を伴う治療と、その後の義歯(入れ歯)設計」をテーマに発表を行いました。
今回のミーティングでは、“歯を多く失わざるを得ない状況に直面したとき、歯科医師として何を考え、どのような治療方針を立てるのか”という考え方や、日々の診療で大切にしているポイントを共有する内容でした。
このコラムでは、そのミーティングの内容をもとに、一般の方にも知っていただきたい「多数歯抜歯と義歯治療の考え方」について、少しお話ししたいと思います。
「歯がグラグラして噛めない」という悩みは、決して珍しくありません
歯科医院には、
- 歯が揺れていて食事がしづらい
- 硬いものを避けるようになった
- 以前治療を受けていたが、しばらく通えなくなってしまった
といったお悩みを抱えて来院される方が少なくありません。特に、歯周病が進行すると、歯を支える骨が減り、歯がグラグラして噛む力に耐えられなくなってしまいます。
その結果、「残したい気持ちはあるけれど、保存が難しい歯」が増えてしまうことがあります。
今回のミーティングでは、そうした状況で、無理に歯を残すのではなく、将来を見据えて抜歯を選択する判断についても話題にしました。
「歯を抜く」と聞くと、どうしてもネガティブなイメージを持たれる方が多いと思います。
しかし、歯科治療の現場では、抜歯は治療の終わりではなく、噛む機能を回復するための第一歩であることも少なくありません。
特に、噛めない状態が長く続いている場合
・食事が楽しめない
・栄養が偏る
・外食や会食を避けるようになる
といった、生活の質(QOL)そのものに影響が出てしまいます。
そのため私たちは、「できるだけ早く、安定して噛める状態を作ること」を目標に治療計画を立てます。
多くの歯を抜く場合こそ、計画性が重要です
ミーティングでは、多数歯抜歯を行う際の考え方についても触れました。
歯を一度にたくさん抜く治療は、体への負担や術後の腫れ、生活への影響も考慮しなければなりません。
そのため、
- 抜歯の回数や間隔をどうするか
- 食事や日常生活への影響をどう最小限にするか
- 抜歯後、どのタイミングで義歯を作るか
といった点を、患者さんとしっかり共有しながら進めていくことが大切です。
治療は歯科医師が一方的に進めるものではなく、患者さんの希望や生活背景を踏まえて、一緒にゴールを設定するものだと考えています。
入れ歯は「とりあえず」ではなく、「長く使う道具」
入れ歯(義歯)というと、「仮のもの」「できれば使いたくないもの」という印象を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし実際には、きちんと設計・製作された義歯は、長期間にわたって噛む機能を支える重要な医療装置です。今回のミーティングでは、
- 義歯を安定させるための設計の考え方
- 長く使うことを前提にした構造
- 将来の調整や修理を見越した作り方
といった点についても紹介しました。特に初めての義歯ほど、「最小限」にこだわりすぎず、しっかり支え、しっかり噛める設計が重要になってきます。
治療後も続く「メンテナンス」という大切な時間
義歯治療は、装着して終わりではありません。時間の経過とともに顎の形は少しずつ変化し、噛み合わせや当たり方も変わっていきます。
そのため、
- 定期的な調整
- 必要に応じた修理や裏打ち
- お口の中の清掃状態の確認
を続けていくことが、快適さを保つうえで欠かせません。
ミーティングでは、歯科医師だけでなく、歯科衛生士による清掃指導の重要性についても共有しました。
「何歳まで、どう食べたいか」を一緒に考える
私が診療や発表の中で大切にしているのは、「現実的で、長く続くゴール」を設定することです。
たとえば、
- しっかり噛んで食事を楽しみたい
- 年齢を重ねても、調整しながら使える状態を保ちたい
といった目標を共有し、過度な治療にならない、持続可能な選択肢を一緒に考えることが重要だと考えています。
最後に歯を失うことは、誰にとっても大きな出来事です。
しかし、その先に「また食べられる」「生活が楽になる」という未来を描くことは十分に可能です。
私たちは、抜歯から義歯、そしてその後の生活までを見据えた治療を日々行っています。
今回のミーティングを通じて、その考え方を改めて整理し、共有できたことは、今後の診療にも大きく活かせる経験となりました。
これからも、「しっかり噛める」「安心して食事ができる」そんな日常を支える歯科医療を、丁寧に続けていきたいと思います。
登戸クローバー歯科・矯正歯科
歯科医師 稲田英里子


